皆さんには定期的に行きたくなる場所はあるだろうか。
自分にはある。いくつかあるのだが、まずは富山県とりわけ五箇山と呼ばれる地域だ。北陸新幹線新高岡駅から定期バスで一時間程度。コロナ禍と昨今の人手不足の影響で一日8便程度あった本数は4本程度になり、未だに元の水準には戻らずにいる。
行くハードルは上がってしまったが、民宿の囲炉裏を囲んで宿泊客とともに夕餉を楽しむ感覚は、一度味わうと病みつきになってしまう。
もう一箇所は三重県伊勢市の伊勢神宮だ。
岐阜の方に友人が住んでおり、彼に合うためというのも目的の一つであるが、ここに行く最大の理由は、地元の居酒屋「一月家」に行くためだ。
居酒屋評論家太田和彦氏をもってして「日本三大湯豆腐」と言われる湯豆腐を食べてみたいというのが、行くきっかけになったかと思う。それからは毎年一度はそこの暖簾をくぐることを目的にしている。
無論、湯豆腐だけではない。一月家にハマった理由は他にもある。
酒(お茶割り)が途方もなく濃い
いきなり下賤な話になってしまったが、我ら呑兵衛にとってはまさに死活問題なのである。グラスいっぱいに注がれたそれは、エメラルドのような見事を色をしている。しかし侮るなかれ。その実態はごりごりの甲類焼酎なのである。一口飲んでしまえば、虜になること間違いないだろう。
日本酒をお店側でブレンドしている
日本酒を頼むと、確か常温か燗にするかを聞かれる。カウンターには複数の銘柄の一升瓶が整列しているが、それらを大将がブレンドをし、徳利に注いでいるのである。以前配合を聞いた気がするが、すっかり忘れてしまった、無念。
複数の日本酒をブレンドしているが、それ自体はとてもマイルドで、どれかが激しく主張しているような感じではない。燗酒にすると得も言われぬ旨さである。
ただ、すっごく熱い。注意されたし。
大将が顔を覚えてくれる
店員さんの愛想の良し悪しというのは直接的な評価ポイントにはならないかもしれないが、実際のところは結構重要だと言える。ここの大将は、私と友人の顔をよく覚えていてくれる。年に1度、多くても2度しか来ない我々のことを覚えていてくれるのだ。これほどありがたいことはない。
私の顔自体が覚えやすい顔というのはあるかもしれないが、そうであったとしても、自分のことを認識していてくれるのは、ちゃんと一人の客として接してくれる印象を与えてくれる。
勘定はそろばんを弾く
この店は食べ終わったあとの皿、飲み終わったあとのグラスは片付けない。帰るまで置きっぱなしである。テーブルであればいざしらず、カウンターの場合は、他のお客もいる手前、あまり広げることができない。仕方なく、皿の上に皿を乗せていく。積み上がった皿は、さながら伊勢のバベルの塔だ。
もちろん、ただ置いているわけではない。
最後の勘定の際に、皿の枚数やグラスの数で計算していくのだが、その際には電卓なんてやわなものは使わない。ここはそろばんを弾くのだ。もう随分と使い古された大柄なそろばんがパチパチと音を立てるのに耳を澄ませていると、もうこれでお開きなんだという心持ちになる。
余談だが、ここは品書きに金額の記載がない。壁には「漬物」や「湯豆腐」、「アジのタタキ」のように品名だけ札がかけられている。初めていく人には少々敷居が高いかもしれない。だがそこは安心していただきたい。
これだけ飲み食いしたのだからこれぐらいはかかるだろうと思いながら財布の中身を開いたものの、大将が伝えてきた値段が私の想定を上回ったことはない。だから大いに飲み食いしてほしい。
伊勢観光といっしょにぜひ一月家へ
もともと伊勢神宮には興味があった。現に式年遷宮の折には参拝もさせていただいた。しかし最近は一月家がメインになってしまっていることは否めない。それぐらいこの店は我々呑兵衛を包んでくれるオアシスなのだ。
もし伊勢に行く機会があれば、一月家にもぜひ立ち寄ってほしい。幸いと近鉄の特急が止まる伊勢市駅にも近い。ゆっくり歩いて15分もいらないはずだ。十分楽しめるかと思う。
以下留意点
- 14時開店とあるが、実際はそれよりも前に開いていることもある。が、我々のようなよその者は14時ジャストぐらいに行くことを勧める。
- 配膳等は大将含め少数で対応されている。じっくり呼び止めるタイミングを見計らうことも肝要だ。
- 一杯目の酒は口頭で注文。料理は紙とペンを渡されるのでそれに書いて渡す。
- 電話はなりっぱなしということもあったりする。予約せず直接行ったほうが早い。入れなくても泣かない。
- 店自体は狭くないが、お客が多い。飲食を済ませたら軽やかに退店するのが良。