空は半笑いしてしまうほどによく晴れていた。
梅雨入りなどなんのその、綺麗に晴れている。晴れているだけではない、暑いのだ。天気予報では最高気温は34℃と言っていた。どこかに繰り出す余裕もない。
こういう日は早い時間から飲んでしまうに限る。
昨晩のうちに、近所のスーパーでタコを買っていた。気温が体温辺りまで上がってくると、どうしてもしんどくなってしまう。タコには疲労回復の効能が期待できるとどこかで見聞きしていたから、自然と買い物かごに入れていた。
冷蔵庫の中身だけでは心持たないので近所のスーパーへ向かう。外は日が照っているが、風が吹いているからか、体感は多少涼しい。
逃げるようにスーパーの店内に入る。外とは打って変わって、随分涼しい。思わずはぁ、とため息が出た。
店内を物色し、自宅の冷蔵庫の中を思い出しながら、かごに品物を入れていく。冷蔵庫の中身――特に野菜を使い切らずに、新しいものを買ってしまい、古いものをだめにしてしまうことが多い。
買い物を済ませ、自宅に戻ると、翌週の弁当の準備といっしょに酒のつまみを作る。平日は帰りが遅いため、このように1週間分を作っておく必要がある。幸いと、料理は好きな部類に入るから、何ら苦ではない。台所が蒸し暑いことだけを除いて。
弁当の準備を含めて1.5時間ほど。時計を見やると、14時前。まだまだ日は高い。今から飲んでもいいのだが、多少焦らしたほうが、酒は旨くなるものだ。
適当に時間を潰すと16時。いい頃合いだ。
時は来た、それだけだ。
タコとニラのぬた、サーモンのサラダ、ブロッコリーとにんにくの炒め物にした。
なんだか無性にぬたが――酢味噌和えが食べたくなったのだ。体が酸味を欲しがっているのかもしれない。そのせいなのだろうか、サラダにはバルサミコ酢のドレッシングをかけている。油と酢、塩と砂糖があれば十分出来上がるので、自炊する際はだいたいドレッシングも自作である。
インターネットでレシピを検索していると、ニラは湯がく際には切らずに、そのまま湯を通すといいと書いてあった。ものは試しと、そのとおりやってみる。
思わず顔が綻ぶ。確かにシャキシャキとした歯ごたえが残っており、心地が良い。レシピには30秒程度湯がくと書いてはあったが、それを20秒程度で抑えたことも、この歯ざわりにいい影響を与えているのだろう。
まずはこの一杯。
今日の一本はアサヒビールの「アサヒ生ビール ワンサード」。初めて見るものだ。
限定の二文字に心惹かれたのと、まろ芳ばしい生ビールのキャッチコピーに心を掴まれたのだった。自分が思いの外新しもの好きということを再確認する。
裏面を読む限り、黒生とマルエフのブレンドということなのだろうか。「ビール通に愛される裏メニュー」と書いてはいるが、自分は馴染みがない。ビール通ではないからかもしれないが。それにしても、こんな面倒くさい注文をする客はビール通と読んでもいいのか、正直疑問が残る。
それはさておき、グラスに注ぐ。確かに黒生由来であろう、僅かにこげ茶がかった色をしているようだ。色は自分好みだ。
そして一口。黒ビール独特の苦みは随分と抑えられているが、コクは生ビールのそれよりも強い。後味がふっくらしており、麦の旨味と甘味が口の中に広がる。余韻も長く、喉の乾きを癒すというよりも、じっくり酒とツマミに向き合うのに向いているように感じる。
バルサミコ酢のドレッシングと一緒に味わうと、何故か黒ビール馴染の苦みを伴うコクが全面に出てきた。これは面白い。こういう発見ができるのは、酒飲みの利点ではなかろうか。
ビールを飲み終わる。次は何にするかを考えるまでもなく、間髪入れずに二杯目の準備にうつる。
結局収まるところに収まるって寸法
迎えるはホッピーの黒。よく聞かれるので敢えて書くが、ホッピー自体にアルコールはほとんど含まれていない。ナカと呼ばれる甲類焼酎にホッピーを注いで呑む代物だ。なので、ナカをどの焼酎にするのかが真髄とも言えよう。私はキンミヤ焼酎を至上としている。
グラスを煽ると、黒ビールに似た苦味とキンミヤ焼酎のがっつりとしたアルコール分が襲ってくる。これだ、これがいいのだ。この、アルコールとのがっぷり四つの感じが、自分が飲兵衛であることを再確認させてくれる。
氷でさらに引き締まったアルコールの硬さが、体をほぐしてくれる。
外を見やると、西陽が室内に注ぎ込んでいた。時間は午後6時、またまだ先は長そうだ。