1つ、胸のつかえが取れた。
何かが解決したわけではない。
言ってしまえば結論が先延ばしになっただけ。
それでも、自分をじわじわと絞めていた荒縄がほんの少し緩んだだけで、目じりが緩み、息ができる。
久しぶりに、外に飲みに行く余裕ができたのである。
どこに飲みに行くか
職場は浜松町。自宅はそれよりも北側にあるのだから、必然的に山手線の内回りに乗り込む。浜松町で一人で飲むことはそう多くはない。以前はいろいろな立ち飲み屋があったものだが、コロナ騒動なんかで贔屓にしていた店は閉めてしまった。
いつもであれば、新橋駅前ビルの地下の立ち飲みに行くが、何となくそこではない気がする。
新橋を越え、神田を越え、気づけば御徒町に来ていた。
御徒町で一人飲むとき、大体はここに行く。
吉池が運営する呑み屋「味の笛」である。
看板にあるように新潟の地酒、そして魚介をはじめとしたつまみが魅力的だ。
店名は吉池の工場がある北海道・別海町を流れる西別川の川底にある筒状の化石「味の笛」に由来する。詳しくはご自身で確認してほしい。
さて、味の笛は御徒町以外に神田のガード下にもある。が、御徒町のほうが店内が広く、2階にも飲食スペースがあり、自分は御徒町をひいきにしている。
定時でさっさと退勤した結果、店内はそこまでごった返していない。
それでも1階の大体の席は一人客、二人客、グループ客でまあまあ埋まっている。何とか空いている席を確保し、酒と肴を見繕にいく。
店の奥にカウンターがあり、そこには様々なつまみが所狭しと並んでいる。勿論刺身もある。壁には使い古されたのか、薄汚れた飲み物の札が貼られていて、否応なしにもテンションが上がるというもの。
客が多くないのでカウンターの順番待ちもスムーズだ。
こういう時こそ、あれこれ考えるよりもイメージでスパっと言ってしまったほうが却っていいものだ。
まずは何を飲むか
酒は新潟「越の白鳥」、肴はメンマと刺身2種盛り。魚の種類は分からない。
越の白鳥は上越市にある新潟第一酒造が醸す酒。銘柄名は公募で決めたらしい。
早速酒を一口。
穏やか。結構すっきり目だ。
反射的に息が漏れる。
こういうのは白身魚が合うのが定石というもの、現にメンマのような味が強いものや、赤身(おそらく中トロだろうか)のような脂が多めで、血の気のつよいものだと酒が負けてしまったように感じた。
写真はないが、キャベツをレンジで温めたものとは相性が良かった。
2杯目どうしよう
するする飲める酒なので、気づけば1本空いてしまった。
1杯で終わりになるほど聞き分けのいい人間ではない。
しばし思案のうち、2杯目。
鮎正宗の本醸造。冷やのみ。
鮎正宗は妙高市の鮎正宗酒造の酒である。
「鮎正宗」という酒名は、昭和初期に
当酒蔵にほど近く保養地として有名な妙高高原の赤倉に
滞在された京都伏見の若宮博義殿下から、
この地で鮎釣りをされた折りに戴きました。
相対するは、塩辛と蕨。越後の人は蕨をからし醬油で食べるそうなので、それに従い自分もからし醤油で。ちなみに乗っているのは鰹節である。
さて、こちらはどうか。
美味い!
口腔から胃におちていくまでに抵抗を覚えない。水のように、むしろ水よりもするりと落ちていく。それでいて、米の旨味がじんわりと登ってくるよう。まさにドンピシャというべきか。
塩辛はさすがにそちらのほうが勝ってしまうが、蕨はいやいやどうして悪くない。
蕨自体がそこまで味が強いわけではないし、味付けも醤油の量を間違えなければ、どちらかが覆いかぶさることはないのだろう。
辛子もつけて食べてはみたが、個人的にはないほうがこの酒にはいいかもしれない。
時間はそこまで経っていないものの、来客が多くなってきた。1階のスペースはまま埋まり、2階に活路を見出す人もちらほらと。2階は座ることもできるから、複数名だとそこもいいのかもしれない。
ここらが潮時だろう。
十分満足したので店を出る。ごちそうさまでした。